銀行マンに告ぐ
「常にベストを尽くす」ことをモットーとしている私ではあるが、この日の講演にはいっそう力が入った。三井住友銀行の部長・支店長クラスの人たちを対象にした講演会である。会場は、大阪市内の元住友銀行本店。今は、三井住友銀行大阪本店。この日の講演は、東京の本社でも、二百人ほどの人たちが聞いている。テレビ中継により、大阪での話も、即時に東京に通じるようになっていたのである。
力が入った理由は、簡単だ。この際、銀行の幹部の人たちにどうしても訴えたいことがあったからだ。まして、大手都市銀行の代表格である三井住友銀行である。私の思いを伝える場所としては、これ以上ありがたい場はない、格好の機会が与えられたのだ。
概して、最近、銀行の評判はすこぶる悪い。不良債権問題で懲りたはずの銀行が、『悔い改めた』様子が伝わってこない。それどころか、『懲りない面々』の様相がある。そのために、多くの企業経営者は、銀行に対する不満が絶えないように思われる。曰く、「銀行は詐欺師だ」、「銀行は血も涙もない」などと。
゛銀行の志゛。私が訴えたかったことだ。「何のために銀行は存在し、何のために私たちは働き、何のために仕事をしているのか。銀行の方々には、今こそ、ぜひその原点に戻っていただきたい。志とは、相手の利益を大きくする心です。それに対して、野望・野心は、自分の利益を大きくする心。ぜひとも、銀行もまた、野望と敢然として訣別して、高い志を取り戻していただきたい」。私は、声を限りに訴えた。またこんな話もした。「信用こそすべての活動の原点。銀行に今一番必要なことは、利益をあげることではありません。信用の回復こそ、急務です。信用が回復すれば、業績は必ず回復する。そのことを信じて歩んでいただきたい」。
銀行が、顧客に対して厳しい姿勢を貫くことは構わない。問題はその厳しさが、誰のためかである。自分たちの利益のために相手に厳しいのでは、恨まれるだけ。相手の利益を確保することに対して厳しいとすれば、その姿勢は必ず認められ、信頼されるはずだ。
講演の後、無理をお願いして、かつて住友銀行本店であった当時の面影を残す一階のフロアーを見学させてもらった。三十一本の大理石の柱、バルコニー、見上げるような高い天井。そこでは、今も百人以上の人が働く。「余りにも威風堂々としたオフィスで、ちょっと圧倒されます」と、案内してくれた執行役員が言う。かつて銀行の仕事ぶりは、威風堂々としていたのである。ぜひその誇りを取り戻して欲しいものだ。