レジ袋

上甲 晃/ 2009年06月06日/ デイリーメッセージ

スーパーやコンビニで買い物をすると、どんなわずかな品であっても、ビニールの袋に入れてもらえる。そして、その袋は無料で提供される。環境保護が大声で叫ばれる昨今、無料でレジ袋をばら撒くのは止めようではないかと考えたのは、東京・杉並区長の山田 宏氏だ。一般論として話を聞いた人達は、「まことに結構な試みである」と賞賛してくれた。ところが、いったんそれを具体化しようとすると、利害に直接関係ある人達は、いっせいに反対派に回る。今回も例外ではなかった。
とりわけ反対派の急先鋒は、区の境界線にある商店街の人達だった。中には、商店街の通りが、そのまま、隣の地域との境界線になっている地域がある。そういう所では、杉並区側の商店街は、ポリ袋有料、通りを挟んで向かいの店は、ポリ袋無料となることもある。
商売をしている人達からすれば、「そんなことをしたら、みんな隣の区で買い物をして、杉並区の店では買わなくなり、干上がってしまう」と、猛烈な反対運動を繰り広げることになる。商店街の人達が集まった会合でも、全員が反対し、山田区長も、進退きわまる場面に何度も遭遇した。
万策尽きたとも思える時、山田区長は、並み居る商店街の人達に向かって、一つの質問をした。その答えによっては、ポリ袋の有料化は断念せざるを得ないかもしれないと、腹をくくった。
「みなさんは商売のベテラン、プロばかりです。そこで敢えて教えていただきたい。ポリ袋を無料で配り続けることは、本当に正しい商売のあり方、正しい商売の道なのでしょうか」。私はその場に居合わせなかったから、会場の雰囲気は想像の域を出ない。しかし、きっと、水を打ったような静寂の瞬間がしばらく続いたのではないだろうか。
山田区長は、その時、会場で手を上げた若い商店主のことを決して忘れることはないと言う。「私も、今まで、おかしいと思ってきました。しかし、なかなか止められなかった。本音を言えば、しようがなくやってきただけです」と発言した。その声は、会場に集まっていた商店の人達の気持ちでもあったようだ。あれだけ反対していた人達が、雪崩を打って、有料化に賛成してくれた。みんなの心が、みごとに一致した瞬間だ。
杉並区は、ポリ袋を有料にした。その後、区民から、反対の声が轟々と起きるようなことは、なかった。それどころか、環境問題が声高に叫ばれれば叫ばれるほど、「早々にポリ袋を有料化に踏み切った杉並区は、先見性があり、意識が高い」と、評価されるようになった。まさに、目先の損得のために止むを得ずやってきたことを克服できた、『志』の話だ。

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