畠山さんの本拠地は、奥まった湾の、さらに入り江になっている中にある。気仙沼の港から乗った観光船は、そこに静かに横付けされた。赤松の生い茂る、緑豊 かな地である。海は、まるで池のように静かである。入り江の入り口に当たるところには、牡蠣のいかだが並んでいる。畠山さんは、「この海もすっかりよみが えりました。森に木を植え始める前、海にはゴミも多く、赤潮が発生して、ひどいものでした。私の目から見ても、海はよみがえってきています」と教えてくれ る。
私達一行は、畠山さんのところにある二隻の船に乗り込んだ。一隻は、懐かしい伝馬船である。ただし、櫓が四本あり、六人でこぐようになって いる。「誰かこいでみたい人いませんか」と、畠山さんが呼びかける。早速、手が挙がる。妻も、「やりたーい」と、手を挙げる。櫓をこぐ指導してくれる元漁 師さんが、「学校の生徒達が来た時にも、こいでもらいます。なぜか、生徒達はすぐにこげるようになるのに、先生方がいつまで経ってもこげないのです」と、 面白いことを言う。
何人もの塾生諸君が、伝馬船の櫓をこぐことに挑戦する。元漁師さんは、「この人達は物覚えが言い」と感心する。常に現場で身 体を使って仕事をすることを教えてきている成果が、こんなところに現れるのかと、こちらがかえって新しい発見をした。頭で櫓をこぐことはできない。全身を 使って動くことを、これからもしっかりと教えていきたいと、改めて教えられた気がした。妻も、子供のころを思い出して、嬉々として櫓に挑んだ。
畠山さんが、プランクトンを採取してくれる。筒状になり、末端に採取用の容器が付いている白い布を海に落とす。そして引き上げて、目をこらして見ると、海水にプランクトンの混じる様子がわかる。畠山さんは、海水をコップに移して、見やすいようにしてくれる。
塾生の誰かが、「飲んでもいいですか」と聞く。「牡蠣や魚のえさになるものですから、有害ではありません。多くの人達が飲みましたが、お腹をこわしたとは 聞きません」と畠山さん。誰かが、少し口をつける。このあたりも、すぐに行動に移す『青年塾』の特徴だろう。私も、口にしてみた。海水の塩味がする。プラ ンクトンに味などない。
カツオのえさになるカタクチイワシ、あるいは牡蠣、アワビやウニなどは、プランクトンをえさにしている。畠山さんたちが 十七年間、水源地に落葉樹を植え続けてきた成果が、ここに現れたのだ。海水と川の水が混じる汽水域で取れる海産物は年間二十億の売り上げです。そのうちの 九割は、大川が運んできた養分のおかげだそうだ。
022006年08月
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