花と武士道

上甲 晃/ 2007年01月14日/ デイリーメッセージ

世の中、園芸ブームである。゛ガーデニングブーム゛と呼ぶ。イングリッシュガーデンは、とりわけ人気があるとも聞く。私の家の付近でも、実に色とりどりの 花を咲かせて楽しんでいる人達が多い。ところが、昔、肥後藩では、殿様の肝いりで、花作りを精神修養として励んできたと聞いて、大いに驚いた。と同時に、 昔の日本人は、花作りを単なる趣味としてではなく、花を栽培し、鑑賞する方法について、高い精神性を求めてきた事実に、改めて感心もし、誇りにも思った。
そもそも私がそのことを知ったのは、全日空の機内誌を見ていた時のことである。「日本人のたしなみ」に興味を持っていた私は、熊本に本拠を構える再春館と いう名の製薬会社が出していた広告の片隅にあった、虫眼鏡がなければ読めないほど小さな文字に注目した。「細川藩第六代藩主の細川重賢は、武士の精神修養 として、肥後六花を栽培し、観賞した」とあった。初めて、肥後六花のことを知り、熊本の人達に詳しいことを聴いてみた。残念ながら、誰も名前こそ知ってい るものの、詳しいことを知らないと言う。そこで私は、熊本県庁に勤務する山下慶一郎さんに、「これは宿題」と言って、調べてもらうことにした。
山下さんは、私が熊本を訪ねた日、「熊本の植物界では第一人者」と言われている大御所を伴って、私の講演している会場に現れた。その人の名前は、今江正知 さんと言う。膨大な資料を持参しておられるので、いささかたじろぐ思いをした。専門的なことを知りたいわけではない。いったい、細川藩では、園芸を通じ て、どのような精神修養をしていたのかを知りたかっただけである。大御所にお出ましいただくほどのことはない。恐縮しながら、大御所の横に座った。
大御所はいきなり、「園芸はそれを育てる人達の思いや考え方によって、作り上げられていくものであり、文化の反映である」と言われる。「園芸にはひとつ は、商売人が作る花があります。それは、見た目が良いものです。それに対して、武士が育てる花は、人の目にどのように映るかよりも、自分の価値観に合い、 自らの生き様にふさわしい物を作ります」とのこと。なるほど、武士は自らの価値観を、園芸に投入したのである。
ちなみに、武士はどんな花を好ん だのか聞いてみた。「武士がめざしたのは、気品があって、清明、端正、豪壮な花です」と答えが返ってきた。まさに、゛花と武士道゛である。肥後六花とは、 菊、朝顔、芍薬、椿、花菖蒲、山茶花を指して言う。私は、だんだん興が乗ってきて、身を乗り出した。実にいい。日本人は、やっぱりすばらしい感性を持つの だ。

この記事をシェアする