地図から消し去られた島

上甲 晃/ 2009年04月05日/ デイリーメッセージ

無数の島が点在する瀬戸内海に、ある時期、地図から抹殺された島がある。大久野島と言う。周囲4キロ強の小さな島だ。広島県竹原市の桟橋から渡ると、船で わずか10分ほどの距離にある。かつて、瀬戸内海に突入してくるかもしれないバルチック艦隊を迎え撃つために、砲台を設置した以外、歴史の場面に登場する ような島ではない。
昭和2年、島に官営工場ができると聞いた時、島人の喜びはひとしおだった。昭和4年、晴れやかな開所式が開かれるこ ろ、島人の喜びは最高潮に達した。工員を80人募集したところ、6,000人が応募したという事実一つ取っても、地元の熱い期待がわかる。しかし、島人が 開所を喜んだ官営工場は、大量殺戮兵器の毒ガス製造工場であった。そのために、軍事機密として、島は、地図の上から消し去られたのである。
゛今、環境の島゛として注目されている大久野島で、今年の秋、私の主宰する志ネットワークの全国会議が開催される。下見のために、私は初めて島に渡った。そして、毒ガス製造島の歴史をつぶさに見学した。
竹原から乗った船が、島の港に近付くと、リゾート気分を吹き飛ばしてしまう巨大な廃墟が目に飛び込む。毒ガスを製造するための電力を供給する発電所の廃墟 だ。枯れたツタがからむ建物の前に立った。ガラスと言うガラスは、ほとんどすべて割れている。この島が、環境の島として売り出す前、怖いもの見たさに中に 入った人達が、至る所に落書きをしている。歳月と共に色あせていった多数の落書きさえ、歴史の悲しさをさらに引き立てているように感じられる。
毒ガスの貯蔵庫は、外からできるだけ目立たないように、崖の影に造られている。周りの草の色と見間違うように緑の色に塗られていた痕跡が、所々に残る。アメ リカ占領軍が、毒ガスを処分するために、火炎放射器を使った。貯蔵庫の内部が黒ずんでいるのは、そのためである。大久野島で製造された毒ガスは、 6,600トン。製造後、日本各地はもとより、中国各地にも配置された。工場にあった毒ガスは、終戦と共に、土佐沖の海に大量に廃棄された。しかし、敗戦 のドサクサで、未だに日本各地の地中に埋もれている物も多い。中国大陸にも、行方の分からなくなった毒ガス爆弾が、無数にある。明治23年、オランダの ハーグで、『毒ガスは人類にとってあまりにも残忍な兵器であるから、使わないようにしよう』と取り決めた。日本が毒ガスを作ったのは、それからはるか後の ことだ。アメリカは、ベトナム戦争で枯葉剤を大量に撒き、今、ベトナムの人達を苦しみ続けている。人は、悲しいほど残忍にもなる。

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