我が家の方針
「子供はね、いつも言うのです。これは、みんなが持っていると。それでは、いったい、誰が持っているのかと聞きたださすと、答えられない。ところが、親は、この言葉に一番弱いのです。みんなが持っているのに、自分の子供だけが持っていない、それはかわいそうだからと、子供のねだるものを買ってしまう。一番良くないケースです。大事なことは、わが家の方針を持つことです。他人のことはいい、我が家の方針はこうだから、だめなものはだめと言える。それが、子供達の精神を作るのです」。そんな話を聞かせてくれたのは、北海道家庭学校の校長である小田島好信先生。『青年塾』北クラスの最終日のことである。
この日、私達は、北海道家庭学校の日曜礼拝に出席するために、朝の七時に宿泊していた津別町の「でてこいらんど」を出発した。みごとな紅葉に心をしばし奪われながら、北海道家庭学校に着いた。厳しい寒さの冬を直前にして、校内は秋の雰囲気を深めつつあった。礼拝堂の周りは、落ち葉が敷き詰められていた。それだけではない。落ち葉が、風が一吹きするたびに舞い落ちて、秋を伝えてくれる。まるで雪が降るように、落ち葉が音を立てて舞う。
礼拝の後、弁当を食べながら、小田島校長先生と懇談した。「ここにいる『青年塾』の塾生諸君は、子供達を育てる現役世代です。彼らが、親として、心すべきことは何ですか?」と、私は聞いた。その時の答えが、「わが家の方針を持つこと」であった。「うちの家はこうだ。誰が何と言おうが、譲れない。そんな強い信念がないと、子供たちは正しく育ちません。とりわけ父親にそのことが求められます。父親が、頑として譲れない基本の生き方を持っている、それが家庭教育の原点です」。小田島校長の言葉は、まことに明快そのものであった。
それに続く、小田島先生の話が良かった。「家庭の厳格な方針を貫くためには、家庭に一つの文化が必要です。家庭の文化がないところで、どんなに一つの方針を貫こうとしても、子供達は見破ります。家庭の文化、それは家庭の中でこだわり続けてきたものと言えるでしょう。とりわけ大切なものは、家庭の食生活です。舌が感じる味は、一生のものです。何を食べるかは、一生忘れられない家庭の文化の基礎です。コンビ二の味では、わが家の味は出ません。デパートのお惣菜売り場で買うおかずは、家庭の文化ではありません。家庭の文化がないところでは、家庭の基本方針は貫けません」。私達夫婦は、『青年塾』における食事作りに、いっそう力を入れなければならないと痛感した。