「私たちの進めてきたことを、できればほかの人たちにも広げたい。行政も巻き込みたい。そして、地域全体の取り組みとしていきたいのですが、大変難しい。多く人たちやグループの反対にあって、正直、落ち込んでいます」と、話を切り出したのは、山梨県富士吉田市で農業を営んでいる武藤さん。私が塾長を委嘱されている『夢甲斐塾』の塾生である。昨晩開催された『夢甲斐塾』は、塾生の悩みや不安、心配事について、みんなで解決策を考えあう時間を設けていた。武藤さんは、最初に手をあげて、自分の悩みを赤裸々に打ち明けた。
武藤さんは、土を豊かにする有機農法を取り入れるとともに、高冷地に適したミルキーウェイと呼ばれるお米を生産している。作ったお米は、過去二年、日本で一番おいしいお米に選ばれた。おかげて、武藤さんと仲間たちは、地元の新聞はもとより、業界の雑誌などにも、取り上げられ、ちょっとした有名人になっている。おいしいお米の生産だけでなく、最近、お米の地ビールやワインをはじめ、次々に魅力的な産品も世に送り出している。
武藤さんは、地域全体にもこの運動を広げようと、勢い込んだ。しかし、反対、拒否が待ち受けていた。武藤さんは、面食らっているのだ。「山梨県人は、出る杭を打つ傾向がある。そのために、なかなか地域に人が育たない。『夢甲斐塾』はその風土を打破したい」と、私は何度も県の幹部から聞かされていた。武藤さんの話を聞きながら、なるほど、こういうことを、゛出る杭を打つ゛というのだなと私は納得した。
そこで、ここは一番、『夢甲斐塾』の塾長として、はっきりとした考え方を伝えなければならないと、私は立ち上がった。「武藤さん、まず地域全体に広げようとしている考え方を止めた方が良い。地域全体に広げるために、みんなの希望や要望を取り入れ、足並みをそろえ始めたら、あなたが進められている運動はどんどん妥協の産物となってしまいます。要するに、出る杭が、足を引っ張られて引っ込んでしまうのです。あなたは改革者です。改革者は、いかなる強い抵抗に会おうとも、自らの信じる道で、まず圧倒的な成果を上げることです。その間、たった一人になるかもしれない。その孤独に耐える。改革者は、孤独を恐れてはいけない。あなたが、押しも押されもしない成果を上げたら、必ず人々は追随します。まず、人がどんなに足を引っ張ろうと思っても、手が届かないほど出すぎた杭になってください」と激励した。運動は、広げるものではなく、広がるものなのである。