杜とつなぐ家作りへの思い
そもそも私が、゛杜とつなぐ家作り゛を企画して、みんなに呼びかけた思いはどこにあったのか。
『青年塾』第5期生の寺岡 賢君は、東京で、マンション販売の仕事をしていた。独身の寺岡君は、それなりに収入もあり、東京での生活に満足し、青春を謳歌していたのである。しかし、実家の林業は後継者を必要としていた。祖父、父親が丹精をこめて作りあげてきた山を寺岡君が後継ぎしなければ、やがて山は荒れ果て、手放さなければならない運命にあった。父親が説得し、寺岡君は説得に応えて、実家に帰ってきた。そして、林業の仕事に携わることになった。
今どき珍しい美談だ。美談は、NHKテレビで取り上げられ、三代にわたる林業者として紹介された。テレビ放映は、それなりの反響を呼んだ。しかし、林業の抱える課題は何も解決されてはいない。私は、寺岡君から、収入状況など根掘り葉掘り質問した。林業者がまことに厳しい状況にあることがわかった。そんな厳しさを我慢して、美談のためにだけ林業を続けるのは良くないし、長続きしないと私は思った。
「夢を持てる林業の実現がなければ何の解決にもならない」と、私は、寺岡君を触発した。寺岡君も、その通りだと思うものの、妙案がないと言う。それならばと、私は、゛杜とつなぐ家作り゛を提案したしだいである。私の考える゛杜とつなぐ家作り゛とは、次のようなものである。
まず、家を建てると決めたら、建設を請け負った工務店さんが、施主の家族を山へ案内する。そして、林業者に、建設に使う木を何本か選んで、自宅の建設用にキープしてもらう。木を切り出すまでの間に、施主の家族は、何度か杜に足を運び、自分の家に使われる木の様子を見に行く。その日は一日、杜の生活を家族で楽しむ。バーベキューパーティもいいし、山歩きもいい。やがて木を切り出す日がくる。その日もまた家族は杜に行く。この日は、威厳を正し、木を切る儀式に立ち合う。子供たちには最高の環境教育の機会でもある。できれば、木を切り出す手伝いもできたら、いっそう楽しい。家が完成したら、また杜へ行く。今度は、家を建てるために使っただけの木を植えるのだ。
私は、そんな夢を描いてみた。施主と林業者を結ぶ家作りだ。林業者は、うちの山で丹精こめて育てた木が、あの人の家の柱に使われているとわかれば、おのずと仕事にやりがいが生まれるはずだ。また、施主は、この柱は、あの山で育った木なのですと誇れる。外国から安い材料を仕入れてきたのでは味わえない喜びがある。