聞かせるよりも、言わせる
最近,いろいろな会社の社員研修に招かれる。時代の変わり目、社員研修についても混迷の様相が感じられる。何よりも、社員研修の担当者が自信を失っているように思われる。自分が力を入れれば入れるほど、社員の熱が冷めていくような気がしてならないのである。
私には、その混迷が手に取るように分かるのである。松下政経塾に勤務していたころ、私が良かれと思って計画した研修は大半成功しなかった。私が力を入れれば入れるほど、塾生の心が冷めていくジレンマを忘れることができない。
それでも、企業においては、「会社の命令である」と強制することができる。しかし松下政経塾は企業ではない。塾生たちは、私の気持ちなど平気で無視してくれる。そこで、私は頭を抱えてしまう。苦しみに苦しみながらひとつの教訓を得た。「与えようとする限界」である。どんなに意義のあることであっても、人から押し付けられることは苦痛なのである。
そうか分かった。こちらが押し付けようとするからだめなのだ。学ぶ人たちが、自ら求めるような研修に変えなければならない、そんなことに気がついたのは松下政経塾を離れるころであった。
「青年塾」を創設したときから、私の研修の進め方は180度変わった。押し付けない。塾生が自ら求める気持ちを何よりも大事にする。押し付けない,それが基本の指針である。
まず,「私の話を聞かせる」よりも、「塾生に言わせる」ことにした。受身の研修ではだめなのである。自らが主人公になって、学び取るように仕向けなければならない。その意味では、社員研修においても、担当者がお膳立てし過ぎなのである。担当者がお膳立てすればするほど、受講生はお客様になってしまう。お客様意識の参加では絶対に研修効果は上がらない。それどころか、聞こえてくるのは不平不満ばかりである。
私が、社員研修の担当者にアドバイスするのは、「自分が動かずに、受講生を動かしなさい」。そして、「話を聞かせるよりも,話をさせなさい」。人間は、自分がしゃべればしゃべるほど,主人公意識が高まるのである。与えれば与えるほど、お客様意識になってしまう。
社員研修革命。社員研修の進め方が変わると、社員は会社が変わりつつあることを実感できる。社員研修の進め方は10年一日のごとく同じで、社員に意識改革を求めるのは筋違いであろう。「最近、社員研修が変わってきたな。会社が変わりつつあるのだな」。そういう実感が持てる社員研修が求められているのだ。