長たる者

上甲 晃/ 2000年10月30日/ デイリーメッセージ

その建物の玄関には、「長たる者は部下の誰よりも損をすべし」とあった。青年塾西クラスで訪問した大晃機械工業株式会社の国際研修センターの玄関にはめ込まれている力強い文字が、そこを通る者の目をとめさせる。少なくとも、何らかの組織において、人の上に立つ立場にある人であれば、瞬間、どきりとしそうである。

山口県柳井市に本拠を構える大晃機械工業株式会社の会長である木村貞明さんは、まことに背骨のしっかりとした人である。是は是、非は非のメリハリの明確なことには定評がある。また、人におもねないことでも知られている。特殊な商品分野ではあるが世界的なシェアーを誇る商品を生産販売している。会長のことをよく知っている人なら、署名入りの言葉の向こうから会長の声が聞こえてきそうな雰囲気である。これほど迫力のある一言もめずらしい。

それにしても,最近、人の上に立つ人のモラルが、地に落ちてしまったように思われてならない。「人の上に立つ者は、誰よりも得をすべし」との教えがまかり通っているような気がするのは私だけだろうか。元来、人の上に立つということは、まことにきびしい責任がともなうものである。人並み以上にきびしく自らを律して、誰に対してよりも自分にきびしくなければならない。

自分を治めることができない者に、人を治めることはできない。人を治める前に、自分を治めることが先決だ。そして、「部下が喜び、お客様が喜び、お取引先がまず喜び、その喜びを自らの喜びとするぐらいの精神」が人の上に立つ者には必要だ。

その意味からも、「長たる者、部下の誰よりも損をすべし」の一言は、おおいに肝に銘じたいものだ。ある大手スーパーの社長が、子会社の株を売買して儲けたかどで、社長の座を追われた。大リストラの道半ばがいけなかった。社員の誰よりも先に得をしてしまったわけである。ご本人は、法的に問題ないとうそぶいた。これは法的問題ではない。人の上に立つ人間のモラルの問題であり、そのほうが罪が深い。

また、内閣の要にある官房長官が、女性問題で辞任に追いこまれた。国を治めるべき指導者としては、お恥ずかしいかぎりである。やはり,国を治める前に、治めるべきものがあるようだ。そのきびしい覚悟がなければ人の上に立たないことだ。改めて、志ネットワーク活動の誓いを確認したいものである。「みんなが幸せになってこそ、自分も幸せになれる」。人の上に立つには、まず志だ。

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