当たり前ができる強さ

上甲 晃/ 2001年11月12日/ デイリーメッセージ

世間が不景気にあえいでいるのを尻目に、半期の決算で、過去最高の利益をあげたというのだから、トヨタ自動車は大した会社である。昔は、松下電器にも、”不況に強い会社”という定評があっただけに、いまだにトヨタ自動車が”不況に強い会社”であることが、いっそうまぶしく見える。松下電器は、その意味で、普通の会社に成り下がってしまったのがさびしい気がする。

トヨタ自動車の9月中間決算によると、経常利益が5266億円。前期比で、34%増。生き馬の目を抜く自動車業界において、圧倒的な強さを誇っている。年間の利益が1兆円を超える見通しだと、新聞記事は伝えている。驚異の経営力である。

私は、日本経済新聞の記事を読んでいて、膝を打った言葉を見つけた。私が日ごろ言い続けているのと同じ言葉が、強い経営力の要因として上げられていた。「当たり前のことを当たり前に、しかも組織だって実行できる強さ」。これが、私のメモに記した言葉である。

私は日ごろから、「当たり前のことを当たり前に、しかも例外なく、すべての人が実行できる会社はすごい会社である」と主張して、当たり前のことを当たり前に実行することを説き続けている。自分なりにそれは一つの信念ではあったが、トヨタ自動車が実際の経営をもって証明してくれると、ますます自信を深めてしまう。

かつてこのデイリーメッセージでも記したことがあるが、松下電器が低迷している最大の理由は、「お得意先を足しげく訪問し、お互いの絆を深めるという当たり前のこと」ができなくなってしまっているのだ。難しいことができないから経営が低迷するのではない。誰でもがその大切さを知っているはずの当たり前のことが、おろそかになり始めたときから、経営力は低下し始めるのだ。

私は、最近、トヨタ自動車の関係会社とのお付き合いが多い。感心するのは、それらの会社の人たちが、トヨタ自動車の厳しい要求に対して、不平不満を持つのではなく、「トヨタ自動車に付いていけば、自分たちも生き残れる」と信じ込んで、厳しい要求にこたえようと努力していることである。下請けを切り捨てることを合理化と考えるか、下請けととともに生き残ろうと厳しい努力をするのが本当の合理化か、その点でも、トヨタ自動車は一つの示唆を与えてくれているように思う。

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