「みなさん、本当にありがとうございました」。お世話になった塾生の代表が、お礼の挨拶に立った。百人を越える塾生からは、熱い拍手が起きた。鳴り止まない。拍手が、静かな過疎の集落全体に響いていくようだ。『青年塾』サマーセミナーの二日目は、塾生全員が広島市安佐北区志路という名の集落の十八軒に、゛一宿一飯゛のお世話になった。それぞれの家のご主人、あるいはご夫婦が、一列に並んで、塾生のお礼の言葉を受けていただいたのである。
ホームステイを受け入れていただいた幹事役の竹下さんが、突然、涙ぐんだ。年輪を刻んだ顔が見る見る崩れ、目頭が赤くなる。その様子に、塾生もまた感極まる。私は、竹下さんに歩み寄り、強く手を握った。「ありがとうございます」。私も、声が詰まった。竹下さんの隣にいる人達の手も握り締めた。そして、ホームステイを受け入れていただいたすべての家の人達と熱い握手を交わした。七十代、八十代の人達ばかりだ。私が手を差し伸べると、はにかむ。とりわけおばあさん達は、いかにも恥ずかしそうだ。それでも、熱く手を握り返してくれる。ホームステイをさせてもらって、何かが通じ合ったのだ。
「戦後、間もなく六十年。今回の行事は、この集落としては。最大の出来事でした」と地元の人は言う。のったりと時間の流れていく平和な集落に、私達『青年塾』の塾生がおよそ百二十人も入ってきて、泊り込んでいくのだから、集落としては、大事件、大行事だったのだ。
それにしても、十八軒の家族が、初対面の若い人達を、よくぞ同じ屋根の下に泊めていただいものである。今回の計画を影で支えていただいた木原伸雄さんの人柄と信用のおかげだ。各家庭に、六人平均、一番多いところは九人もの塾生や家族を預かっていただいた。それだけではない。塾生諸君に対して、自らの戦争体験や田舎の暮らし振りなどを懇切丁寧に話していただいた。そのことが、若い塾生諸君には、かけがえのない機会であったようだ。「初めて戦争のころの話を聞いた」、「うなぎの取り方を教えてもらった」、「若いころの集落の様子を話してもらった」などと、口々に一夜の経験を新鮮な驚きをもって語り合っていた。
今回のホームステイは、いかにも『青年塾』らしい研修である。一歩踏み込んで、現実の中に身を置く。そこから見えるものは、通り一遍の研修では得られない感動と発見がある。おまけに、たった一晩のホームステイにもかかわらず、別れる時には涙ぐむ人がいるほど、心通じ合うものがあったのだ。身をもって経験する学びの深さを、改めて実感した。