「若者の怒りが改革のエネルギーになる」と私は確信している。もしその表現に、より正確を期するならば、「大局観を持ち、正義感に基づく若者の怒りが世の中を変える」となる。裏返すと、若者が怒りを忘れてしまったら、世の中はけだるく停滞するばかりである。
ちなみに、松下政経塾の第十期生である中田 宏君は、「前職の市長が四選目の選挙に出ることを長すぎると怒り、借金を振り返らずにハコ物ばかりを造る市政をけしからんと怒り、中央省庁の天下りの市長が二十年も続くことを許しがたいと言って、勝算のあまりないと言われた市長選挙に出た。しかし、中田君の怒りが市民に通じて,選挙に勝った。若者の正義感に立つ怒りが、時代を変えた実例である
同様の実例を、最近、目の当たりにした。次代を担う美容師の育成をめざす『若竹塾』の研修修了発表会でのことである。「これからの活動」と題して、名古屋市内を中心に、手広く美容室を営む日置美容室の専務取締役である日置 尚君が、発表した。それは、美容業界のあり方に対する怒りからスタートした内容のものであった。
「日本の美容師は、パリやニューヨークに研修に行くことをもって、一つのステイタスとしてきました。私も、研修のために、出かけました。しかし、現地で指導する人たちは、実に偉そうにしていて、私たちを頭ごなしに叱り飛ばす。そのたびに、日本から出かけた美容師は、ますます萎縮して、パリやニューヨークにコンプレックスを抱く。しかし、私たちの技量はそんなにも低いだろうか。私たちの技量と彼らの技量との間に、そんなにも大きな差があるのだろうか。私は、差はないと確信している。だから、私たちは、これからニューヨークに店を作り、彼らに負けない仕事をしようと思う。ニューヨークで、立派に成功して見せようと思う。みなさん、いかがですか」と気負いながら、みんなに迫った。
私は、日置君の発表を聞いていて、自分自身の腹の底から力が沸いてくるような気がした。そして思わず、「そうだ」と叫びたくなった。高いお金を出して、クソミソに叱られながら学ぶことも必要かもしれない。しかし、そんなに偉そうに言われるほどの差はないぞと開き直り、怒る気持ちは、実に若者らしくて頼もしい。若者は、そうでなければと、心ひそかに喝采の拍手を送った。
若者は、現実の枠組みに安住してはならない。現実の枠組みに自分をはめ込むような処世術に生きてはならない。現実社会は矛盾に満ち満ちている。君たちは目を見開き、激しく怒らなければならない。