「帯というものは、あまり目立ちすぎてはいけない。主役はあくまでも着物です。帯の役目は、着物を引き立てることにあるのです。だから、この作者は、できるだけ控え目で、柔らかなデザインの帯作りに取り組んでおられます」。そんな説明をしてくれたのは、松下美術苑『真々庵』の苑長である徳田樹彦氏。徳田氏からは、今までから何度も、松下美術苑の地下に展示されている人間国宝の作品について説明を受けたことがある。そして今回もまた、説明を聞きながら、なるほどと大きく納得し、うなづくことがあった。それは、すべての作品には、脇役、引き立て役の存在が大きいことだ。
帯が主役である着物の存在を引き立てる重要な働きをするように、人形の置き台や置き板もまた、うえの人形を引き立てる重要な働きをしているのだそうである。私もそんなことを知ったのははじめてである。そう言われて人形の下にある板を見ると、絶妙の働きをしている。真っ黒に塗られた板もあれば、波の様子をそこはかとなく表した板もある。すべて、まったく自己主張することなく、主役をいっそう引き立てている。
あるいは有名な焼き物の、柿右衛門。白い生地の上に、鮮やかな赤い色の花が生えている。私はどうしても鮮やかな色彩に目が向くが、柿右衛門の真髄は、皿全体に広がっている白地にあるのだそうだ。「この白い生地は、真っ白ではありません。米のとぎ汁の白さです。柿右衛門の真髄は、この米のとぎ汁の白さを出すことにあるのです」と説明されると、初めて生地の目が向く。確かに、純白ではない。これを、”濁手”というと教えられると、すっかり”通”になった心境である。ここでもまた、濁り手の白い生地が、鮮やかな赤い色を引き立てているのだ。
まだある。江戸小紋。天眼鏡を近づけて見なければ、とてもその文様が識別できないほど繊細である。その驚くほどきめの細かいデザインは、極限まで削り上げられた刃物、ミクロの極致である紙型など、下支えする技術や道具のおかげである。作者は、「最高水準の技術や道具の上に、私はちょこんと乗っかっているだけ」と言う。謙遜の言葉であると共に、真実の言葉でもあるのだ。
最高級の作品は、引き立て役があって、初めて輝いているのだ。作品を見る時には、引き立て役を見ることが一つのポイント。江戸小紋のような極限の繊細さを誇る作品を作る時に、紙型を作る人たちは、どうしても失敗を恐れる。そこで作者は、失敗した作品もすべて買い取ることを約束する。それによって、引き立て役が大胆に挑戦できるのだ。