「この三十年間で、消費量は八倍になりました。納豆の消費量はずっと増え続けています。ちなみに、同じ大豆製品である豆腐や油揚げは二倍ほどの伸びですから、納豆の成長ぶりがわかります。とりわけ、最近は関西地区での伸びが著しい。私どもでは、岡山に工場をつくるなど、関西での販売に力を入れています」と話してくれたのは、株式会社タカノフーズの社長である高野英一さん。このところ不景気知らずの伸びを続けている納豆は、日本人の食卓に、今や欠かすことのできない大切な食品になりつつあるようだ。
昨日、私は、タカノフーズさんの幹部研修を担当させていただいた。社長と専務のほか、役員一同が集まった研修は、合計六時間の長丁場であった。タカノフーズは、”おかめ納豆”の愛称で、業界トップの位置にある。シェアーは、三割近い。水戸納豆の名で有名な茨城県に本拠地を置く。ちなみに、納豆を生産する会社は全国に四百から五百社ある。そのうちの半分が茨城県にある。水戸納豆は、納豆の主力なのだ。
どうして納豆がこんなに伸びているのだろうかと、素朴な疑問が湧いてきた。昼休み、高野社長に質問した。「それは、業界挙げて、納豆を育ててきたからです。全体のパイを大きくすることにみんなで取り組んできたから、ここまで伸びてきました」との答え。まさに、志である。自分さえ良ければいいとの狭い考え方に立ち、人のものでも分捕ることを考えていたのでは、今日の姿はなかったことになる。
「みんなが良くなれば、自分も良くなる」とうたった”志ネットワークの誓い”にある文書のモデルケースである。「全体のパイを大きくすることには誰の反対もない。納豆が健康食品であることを訴え続けてきたことが、成長の一番の原因です。当社単独でも、納豆の効用を訴える広告宣伝活動に力を入れてきました。業界トップにあるものの責任でもあるわけです」。うれしい言葉だ。それに比べると、納豆の消費量の一・五倍ある豆腐や一・二倍の油揚げは、あまり伸びていない。一万数千軒ある豆腐屋さんが、豆腐そのものを育てるところまで手が回らなかったからのようだ。企業規模が小さいからやむを得なかったのかもしれない。
タカノフーズさんは、次は、豆腐や油揚げに力を入れようとしている。豆腐や油揚げに最も合う大豆を育てるところから着手していく方針である。日本伝統の大豆関連商品が見直されて、伸びていくことは、まことにうれしい。日本人以外は、納豆や豆腐をほとんど食べない。まさに、伝統の食材を大切にするスローフード運動の日本版だ。